同期を要する電話での疑義照会
更新日:2024年10月29日
疑義照会アプリ開発の背景
先日の記事では、疑義照会アプリを開発するに至った背景について書かせていただきました。
同期を要する電話での疑義照会
「診察の隙間で折り返しの電話をして疑義照会に対応する」というのは、現在の疑義照会におけるよくある光景です。現状では仕方ない部分もあるとはいえ、このままでは解決にならないと思い、疑義照会アプリの設計を考え始めました。
私は、「よくある利用ツールである電話だから非効率なのではないか?」 という仮説を立てました。
近年、固定電話を引かずに携帯電話だけを契約する人が増えています。さらに、携帯電話でも従来の音声通話機能を使わない人が増えているのではないでしょうか。SNSのダイレクトメッセージ機能で連絡を取り合うことが多く、電話番号にかかってくる電話は緊急性の高い内容を想定してしまうため、不安を感じると言う方も多いかと思います。
しかし、クリニックでは予約や問い合わせ、セールス、そして疑義照会など、業務上の電話がかかってくるのが当たり前です。あまりにも電話が多いため、受付スタッフに電話のフィルタリングをしてもらわなければならない状況です。つまり、同期を求める(すぐに対応する)ために、受付というワンステップを経由する必要があるため逆に対応が遅くなってしまうという矛盾が生じています。
非同期の疑義照会
上記の考察から、同期を求めない方が迅速に対応できるのではないかという新たな仮説を立てました。
この視点で見ると、従来から使用されているFAXや、事前プロトコール締結による疑義照会は、まさに同期を求めない方法(非同期)です。
電話と違い、FAXの場合には相手に遠慮しにくいという心理的な安全はあります。しかし、FAXは受信に気づきにくいという問題があります。また、プロトコールによる疑義照会は、そもそも疑義照会が行われないため、気づくか気づかないかの問題はありません。しかし、プロトコールで事前に締結された疑義について、クリニック側が気づくことがないため、フィードバックが得られないという、別の意味で気づきにくいという問
題があります。
ホットラインが必要
そこで、確実に相手に気づいてもらうためには、SNSなどの非同期のITツールが必要だと考えました。
なぜ「いつも使っていないSNS」の方が気づきやすいか?
例えば、以下のような状況を考えてみてください。
1. いつも使っているSNS(例えばLINE)の通知が来た時、どのように思いますか? → 「また友達かな?宣伝かな?診察終わりか休憩時間に見よう」
2. いつも使わないけど疑義照会の通知のみに使うSNSの通知が来た時、どのように思いますか? →「これは疑義照会だから、今すぐ見なければ!」
つまり、日頃から使っていないSNSだからこそ、業務連絡だと判断できるのです。これが電話と異なる点です。電話は雑多な連絡が多いため、一見早そうに見えても、実際には受付のフィルタリングを通ることで遅くなってしまうことが起こっていました。しかし、いつも使わないものは疑義照会だとすぐに気づくため、フ ィルタリングがいらないホットライン機能として役立ちます。
では具体的には?
具体的にはどんなホットラインが良いか?ですが私が考えたのは
・多端末にインストールできる
・あまり皆さんが使っていないSNS
・バックアップが必要ない
・無料で使える
これらの条件を満たすものとして、当初はSlackを導入することにしました。(※現在、Slackは無料で使える条件が厳しくなり、無料プランだと90日までの履歴しか見れなくなっています。)
一般的には、多くの人に使われているSNS、つまりネットワーク効果のあるSNSが人気ですが、ホットライン機能としてはネットワーク効果がないものが適しています。 (1)
当初は当院と近隣の薬局だけで運用するつもりでしたので、SlackのAPIを作成し、私自身が近隣の薬局に赴いてインストールすることで問題ありませんでした。しかし、継続していくうちに、このままではスケールさせるのは難しいと感じるようになりました。
(旧バージョンアプリ)Slackでの疑義照会の課題
一度導入が済んだ後は非常に優秀な疑義照会アプリで、近隣の複数の薬局との疑義照会はほとんどSlackで完結していました。たまに、外来診察が忙しすぎてSlackの通知を見落としてしまい、結局電話がかかってくることもありましたが、当院では問題なく運用できていました。
課題①:設定が難しい
Slackは、インストール、ワークスペース作成、APIインストールという流れが正直難しかったため、我々が現地に赴いて設定を行っていました。近隣の薬局であれば設定のお手伝いができますが、遠方の場合は現実的に難しいと感じていました。
課題②:導入自体が認められない
導入説明のために近隣の薬局を訪問すると、現場の薬剤師の方からは「ぜひ入れたい!」という声をいただきました。オーナー薬剤師であれば即決でしたが、多くのチェーン店の薬剤師は本部に伺いを立てなければならず、業務用PCにSlackをインストールすること自体を認めてもらえないケースがありました。
課題③:PCの通知が弱い
Windowsパソコンの場合、Slackの通知はデフォルトで5秒になっています。設定で最短5秒から最長5分まで変更できますが、それでも診察中に見逃してしまうことがありました。それにそういった設定をしてもらわなくてはならないのは先日の記事にも書いたTPPIなのです(TPPIとは、Theoretically Possible, ButPractically Impossible の略です。)
新バージョンの構想
専用のスマホアプリや以前のSlackのAPIも悪くないのですが、これまでの経験からWebアプリにすることにしました。多くの薬局やクリニックに使ってほしいと考えた時に、Webアプリであればインストールが不要なため、以下の利点があります。
・使用・導入が簡単
・薬局の本部に問い合わせ不要
・開発側がインストールに赴く必要がない
・新たな薬局・クリニックでもすぐに使える
Webアプリ化
Webアプリ化により、インストールの手伝いが不要になったため、医療機関や薬局が自身で登録できるようになりました。ただし、誰でもアカウントを作成できてしまうと問題があるため、クリニックの承認は開発側が、薬局の承認はクリニックが行うような設計にしました。
通知の問題点
疑義照会アプリが電話での問い合わせよりも優れている点として、以下の2点が挙げられます。
1. 従来の電話での疑義照会より気楽
2. 従来の電話での疑義照会より早い
医師は意地悪で疑義照会に 遅く答えているわけではありません。受付に疑義照会の電話が来ていることには気づいていても、目の前の患者さんを診察しているため、答えたくても答えられないというジレンマに苦しんでいるのです。そこで、医師にできるだけ早く確実に通知を届けることが重要になります。
そのためには、電話のように出るまでかかってくるような、ある種のしつこさが必要です。
A. メールに通知
メールは基本的にメールアプリを開かなければ情報を確認できません。オプションとしてメールアプリの通知をスマホやデスクトップに表示させることもできますが、疑義照会以外のメールも通知すると、通知が多すぎて見逃してしまう可能性があります。
B. Webhookでクリニック特有の通知チャンネルに通知
Webhookを利用することで、デスクトップやスマホに通知を送信し、気づく確率を上げることができます。
通知方法の比較
疑義照会をスムーズに行うためには、医師への通知が迅速かつ確実に行われる必要があります。
従来の電話は、通知の到達率と速度の面では優れていますが、診察中の医師に直接連絡が届かないという課題があります。
Webアプリは、電話とは異なり、医師がアプリを常に開いているとは限らないため、通知の到達率と速度に課題があります。
そこで、Webアプリの通知機能を強化するために、メール通知やWebhookによる通知が考えられます。それぞれの通知方法の特徴を以下の表にまとめました。
方法 | 到達率 | 到達時間 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|
電話 | 100% | 0秒 | 確実に通知が届き、すぐに気づくことができる。 | 診察中は医師に繋がらない。 |
Webアプリ単独 | 低い | 長い | アプリを開いていれば通知に気づくことができる。 | アプリを開いていないと通知に気づかない。 |
Webアプリ&メール | 高い | 長い | メールで通知が届くため、アプリを開いていなくても気づくことができる。 | 通知に気づくまでに時間がかかる場合がある。 |
Webアプリ&Webhook | 高い | 短い | Webhookで即時通知が届くため、すぐに気づくことができる。 | Webhookに対応したアプリが必要。 |
*Webhookとは?
Webhookとは、Webアプリケーション間でリアルタイムにデータを送受信するための仕組みです。
例えば、ECサイトで注文があった際に、Webhookを使って配送システムに自動的に通知を送信することができます。(3)
*Zapierとは?
Zapierは、異なるWebアプリケーションを連携させることができるサービスです。
Zapierを使うことで、例えば、新しいメールを受信したら、自動的にSlackにメッセージを投稿することができます。(4)
*Pushbulletとは?
Pushbulletは、スマートフォンやパソコンなどのデバイス間で、通知やファイルなどを共有することができるサ ービスです。(5)
PWA機能も入れていただきました
「PWAって何だろう?」と思われたかもしれません。PWAとは「Progressive Web Apps」の略で、Webサイ トをスマホアプリのように使えるようにする技術です。
通常のWebサイトは、ブラウザで開かないと通知に気づきにくいというデメリットがあります。 PWA化すると、以下のようなメリットがあります。
・プッシュ通知を受け取れる
・ホーム画面にアイコンを設置できる
「最初からスマホアプリを作れば良いのでは?」と思われるかもしれません。しかし、スマホアプリの開発には、以下のような課題があります。
・AppleやGoogleの審査を通過しなければならない
・iOSとAndroidそれぞれで異なる設計をしなければならない
PWAは、Webアプリとスマホアプリの両方のメリットを兼ね備えているため、これらの課題を解決することができます。
疑義照会を取り巻く課題と解決策:Webアプリの可能性
患者さん、薬剤師、医師それぞれの悩み
疑義照会は、患者さん、薬剤師、医師それぞれにストレスや負担をかける可能性があります。
患者さん
・疑義照会が終わるまで薬をもらえず、待ち時間が長くなる
・早く帰りたいのに、帰れない
・疑義照会が終わるまで薬をもらえず、待ち時間が長くなる
・早く帰りたいのに、帰れない
薬剤師
・医師が怖くて、診療時間内に疑義照会しにくい
・電話しても、なかなか繋がらない、待たされる、嫌味を言われる
・診療時間外や休診日は、電話が繋がらない
・医師とのやり取り用のアプリをインストールしたいが、本部の許可が下りない
・医師が怖くて、診療時間内に疑義照会しにくい
・電話しても、なかなか繋がらない、待たされる、嫌味を言われる
・診療時間外や休診日は、電話が繋がらない
・医師とのやり取り用のアプリをインストールしたいが、本部の許可が下りない
医師
・疑義照会にはすぐに対応したいが、目の前の患者さんを優先せざるを得ない
・診療中、休診日、診療時間外でも対応したいが、適切なツールがない
・疑義照会にはすぐに対応したいが、目の前の患者さんを優先せざるを得ない
・診療中、休診日、診療時間外でも対応したいが、適切なツールがない
多くの場合、誰が悪いわけでもない
多くの場合、患者さん、薬剤師、医師の誰が悪いわけでもありません。
それぞれがそれぞれの立場で、最善を尽くそうとしているにもかかわらず、現状のシステムでは、スムーズな疑義照会が難しい状況です。
特に、患者さんと薬剤師は、疑義照会による待ち時間が発生し、負担を強いられています。
Webアプリが解決策に?
これらの課題を解決するために、Webアプリが有効な手段となります。
・無料で利用できる
・薬局側は本部への問い合わせやインストールが不要
・医師は診察中でも簡単に返信できる(Webhook設定で、受付や診察室でも確実に通知を受け取れる)
・診療時間外や休診日でも対応可能
Webアプリは、疑義照会に関わる全ての人にとって、よりスムーズでストレスフリーな環境を提供できる可能性を秘めています。
疑義照会アプリのゴール
この疑義照会アプリは、単に疑義照会を効率化するだけでなく、医療従事者同士のコミュニケーションをより円滑にすることを目指しています。
医療現場には、医師と薬剤師の間には、時にヒエラルキーや遠慮の文化が根強く存在し、それが円滑なコミュニケーションの妨げになることがあります。
このアプリを通じて、
• 患者さんや薬局の負担を軽減し、
• 薬剤師が医師に遠慮なく意見交換できるような、
• フラットなコミュニケーションを実現したいと考えています。
医療従事者同士のヒエラルキーや遠慮の文化といった課題にご理解があり、より良い医療環境を目指して、フラットなコミュニケーションを推進したいと考えている医師の先生方に、ぜひこのアプリをご利用いただきたいです。
登録やご利用はこちらから>>https://gigishokai.com/
疑義照会の概要と設定方法
このあたりはKindleやYouTubeで解説しておりますので参考リンクから御覧ください
(6,7,8,9,10,11,12)
(1) ネットワーク効果について https://note.com/teyede1972/n/n8d0423393913
(2) PWAとは https://www.seohacks.net/blog/2809/
(3) Webhookとは https://kintone-blog.cybozu.co.jp/developer/000283.html
(4) Zapierとは https://note.com/teyede1972/n/n7bea583d6d43?magazine_key=mc3ae2f599e44
(5) Pushbulletとは https://note.com/teyede1972/n/ndb95090cecc4
(6) 疑義照会アプリ導入① KINDLE出版 https://amzn.to/4fgxcNA
(7) 疑義照会アプリ導入② KINDLE出版 https://amzn.to/4hf44IB
(8) YouTube① クリニックの導入 https://youtu.be/bGJGhRcr-Qk
(9) YouTube② 薬局の導入 https://youtu.be/HmDCPirHdv0
(10) YouTube③ 実際の疑義照会 https://youtu.be/2VWJ3U1a_MU
(11) YouTube④ WebhookでSlackに https://youtu.be/3KLaLWZAlaU
(12) YouTube⑤ WebhookでPushbulletに https://youtu.be/nU4Nuxe85A4
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